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仙台高等裁判所 昭和58年(ネ)34号 判決 1983年9月26日

控訴人

須賀川市

右代表者市長

澤田三郎

右訴訟代理人

田島勇

堀家嘉郎

被控訴人

佐藤雄吉

被控訴人

佐藤ハルエ

右両名訴訟代理人

石川博之

宮本多可夫

主文

原判決を取消す。

被控訴人らの請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実

控訴人は主文同旨の判決を求め、被控訴人らは、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を決めた。

当事者双方の主張は、左記のほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

控訴人は次のように主張した。

1  防火用水槽が「その営造物として本来具有すべき安全性」とは、通行人が誤つて転落するのを防止するに足るべき設備、構造を具有すべきことをいうのであり、かつ、それをもつて足りるものであるから、防護網が外壁から1.3メートル、地面から1.45メートルの高さをもつことによつて、十分に右安全性を具有しているものである。

2  本件事故は四才一〇月の男子が防護網をよじ登つて本件貯水槽に転落死亡した事故である。ところで、幼児が身長よりも高い防護網をよじ登るということは、控訴人としては通常予測することができないことである。控訴人はかかる行為まで予測して事故防止対策を講ずべき設置管理義務を負わないというべきである。

証拠関係<省略>

理由

本件貯水槽が控訴人の設置管理に係るものであること、被控訴人らと亡秀雄との身分関係、本件貯水槽の構造その他現場の状況並びに本件事故の状況に関する当裁判所の認定は原判決の理由と同じであるから、原判決理由冒頭から原判決一四枚目表一行目までを引用する。

本件貯水槽の設置又は管理に瑕疵があつたか否かについて判断するに、国家賠償法二条一項に規定する営造物の設置又は管理の瑕疵とは営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、これを貯水槽についていえば、貯水槽が通常有すべき安全性とは、人が(大人でも子供でも)たやすく入り又は転落することを防止するに足る設備を備えることをいうものと解される。この場合、貯水槽に設置された金網を人がよじ登ることを防止するに足る設備まで備えることは必要でないと解するのが相当である。

本件の場合、前記認定のように、貯水槽のコンクリート外壁上に高さ1.3メートルの金網製の防護網が設置されていたのであり、この防護網は人が容易に貯水槽に入つたり、転落したりすることを防止するに足るものであるから、本件貯水槽は通常有すべき安全性を備えていたと認めるべきである。右防護網の上にいわゆる忍び返しが設備されていなかつたけれども、大人でも子供でも、人が防護網をよじ登るということは、社会通念上、通常予測しえないことであるから(それが危険であることの認識能力を有する者はそれが危険なるが故に、右能力を有しないような幼児なら体力がない故に、その行為をしないであろう。)、よじ登り防止のための設備である忍び返しを備えていないことは通常有すべき安全性を欠いたことにはならないというべきである。

前記認定のように(原判決一二枚目表)、被控訴人ハルエは、本件事故直前、買物に行くのに秀雄を連れていこうとしたが、秀雄が行かないというので、同人を本件貯水槽のそばに残して買物に行つたのであるが、かように幼児を貯水槽のそばに残したということは、被控訴人ハルエは秀雄が金網をよじ登るようなことを予測しなかつたからにほかならない。この点から考えても、貯水槽の設置管理者にとつて金網のよじ登りは通常予測しえないことであると解することが十分首肯できることである。

以上のように、本件貯水槽の設置又は管理の瑕疵は認められないから、その余の点を判断するまでもなく被控訴人らの本訴請求は失当である。よつて、原判決を取消して本訴請求を棄却することとし、民事訴訟法三八六条、九六条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(佐藤幸太郎 石川良雄 宮村素之)

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